実に多くのメディアが騒ぎ立てる、秋元康氏曰く「お祭りイベント」。この結果に一喜一憂する姿は、もはや初夏の風物詩と化した。しかし、祭りはそれで終わらない。結果もさることながら、選抜メンバーによる総選挙楽曲という大きなイベントも待っているからだ。
1位を獲得したメンバー、果ては参加したメンバーの名刺代わりになる楽曲。力の入れ具合も群を抜いており、ある意味でその年におけるAKB48の集大成として存在する。各年の楽曲を見ることで、その年のAKB48を紐解くことができる。今稿では過去の総選挙の結果と共に、AKB48の象徴となった楽曲たちを振り返ってみたい。
『言い訳Maybe』
記念すべき総選挙曲のスタートにして、AKB48の勢いを加速させた1曲。絶対的センターである前田敦子が、前評判通りセンターを獲得。AKBの王道とも言える「ボクとキミ」による、青春の1ページを切り取ったような世界観と共に、イントロから疾走するメジャーなギターサウンド。「君のことが好きだ」ということを照れ隠しのように「言い訳」としてしまう、切なさあふれる言葉を、サビで一気にマイナー調で駆け抜けていく展開はカタルシスを呼ぶ。特に「愛しくて 切なくて」から始まるCメロの泣きのサウンドは格別。前田と大島優子の葛藤を軸に、自転車レースを行う青春群像劇MVは総選挙という厳しい戦いを意識した作りながら、メンバー間の絆を強く残しベストMVに挙げるファンも多い。
『ヘビーローテーション』
総票数は40万超。じつに前回の約7倍の票を集めるという、グループとしての勢いを感じさせることとなった第2回。その勢いは結果にも表れ、前回「私は上を目指す事をやめません」とスピーチした大島が絶対的王者であった前田を破るという、大波乱を見せた。この勢いを象徴するかのごとく「one, two, three, four!」という、大島のキレある掛け声とともに、シンプルな展開と煌びやかなコード進行、シンプルかつ覚えやすい歌詞と、キャッチィのつるべ打ち状態が続く。牧野アンナによるマイクスタンドを駆使した振付も親しみやすく、蜷川実花が手がけたガーリィーの極北のような“下着”MVも相まって、既存のAKB48ファン以外からも支持された。年間カラオケチャート1位を2011年から翌年まで独占、動画再生数は1億回を超えるなど、この1曲でAKB48は国民的アイドルグループへと完全に登り詰める。
『フライングゲット』
ついに総投票数は100万票を超え、連日新聞、テレビら各メディアが大きく取り上げるなど、一大行事と化した第3回。総投票数の2割を占めることとなった“あつゆう”の激しい戦いは、前田復活というドラマに帰結する。激しく乱打されるラテンパーカッションとホーンセクションの豪勢さが、いつになく圧を感じさせる。歌詞も「君が僕に恋を恋をしているのは鉄板」というAKB48が紡いできた“ボクとキミ”の物語としては実に珍しい、挑発的な言葉が全編に渡り散りばめられている。歌唱メンバーを多く揃えたことで重厚なコーラスワークも映え、かつてないほどのマッシヴな印象を与えたのは、この年に日本が未曽有の大惨事を迎えたことで、力を与えるという意味合いも込められてのものだろう。クンフームービー調のPVもさることながら、西武ドーム公演の不死鳥のごとく蘇る前田のドラマティックさがきっと多くの人の印象に残っているだろう。
『ギンガムチェック』
東京ドーム公演、前田敦子卒業という一つの区切りを迎え、次への胎動を見せた第4回は大島優子の復活で幕を開ける。「いい曲だなあ…AKBっぽいね」という惹句の通り、昂揚感溢れるギターのイントロで幕を開け、その後も王道かつアッパーに展開していくサウンドは、大島の陽のイメージにピタリとハマッた。大島、渡辺、柏木という、この年の総選挙の高順位から進んでいく歌割りも面白い。ジョセフ・カーンが手がけた、ホラー、アクション、果てはウルトラ怪獣まで飛び出すハチャメチャなザッピングPVも彼女たちの魅力を存分に発揮させている。カップリング『夢の河』は前田敦子最後の参加楽曲。始まりと終わりの両面を併せ持った、ターニングポイントとなる1枚だった。
『恋するフォーチュンクッキー』
大島優子初の連覇が予想された第5回大会。勝利を勝ち取ったのは指原莉乃という大波乱。「普通の女の子が輝く」というAKBの持つコンセプトを、体現した結果となった。「人生捨てたもんじゃないよね あっと驚く奇跡が起きる」という歌詞は、泥にまみれ、這い上がりシンデレラのごとく駆け上がった指原の姿と共に、暗い影を落とす世の中への応援メッセージも同時に重なる、素晴らしいフレーズ。音は実にシンプルかつスウィートな70~80’sフィリーソウルサウンド。この年、海外ではダフトパンクが80年代ディスコへと回帰した『ランダム・アクセス・メモリーズ』の大ヒット記録。まるで世界のムーヴメントと呼応するかのごとく生まれた『恋チュン』はAKB楽曲に興味がない(ひいては軽蔑していた)批評家勢すらも虜にした。誰もが楽しく踊れる振付は、遊戯会の出し物としてもよく使われ、ロックミュージシャンから、果ては市職員までもが「踊ってみた」動画を投稿するという事態を生み出す。老若男女に愛されるというアイドルのど真ん中を見事打ち抜いた。圧倒的な幸福感をばらまいた、これこそまさにポップミュージック。
『心のプラカード』
黄金期を担ってきたメンバーの多くが卒業を迎え、新生AKB48の舵を切るという意味で、新たな門出となった第6回大会。デビュー時から次世代をけん引する存在として期待されながらも、あと一歩のところで涙を飲んできた渡辺麻友が初の1位を獲得。『ギンガムチェック』の板垣祐介、『恋チュン』の武藤星児が手がけた「80年代ディスコ」調サウンドと王道アイドルソングの折衷。シンプルに聴こえるがバックでガンガン鳴るピアノ等かなり細部まで凝った力のこもり様だ。口に出すことができない言葉、でも心に書いたプラカードを見てもらえると伝わる…という歌詞も奥ゆかしさが表れていて、まさにAKB48の“アイドル”を担ってきた渡辺のパブリックなイメージにピタリと合う愛らしい楽曲に仕上がっている。『これからWonderland』『恋チュン』に連なるAKBのグッドミュージック路線としての一つの到達点を迎えた印象。
どの楽曲も優勝者のイメージをベースに作られ、しかもその年のJ-POPの顔になってきた。果たして今年は、どんな楽曲が発表さるのか?大いに期待したい。
(C)AKS
神曲多し!総選挙楽曲を全曲おさらい
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